「政民合同會議」2021年3月17日 講師/宮本 雄二 元駐中華人民共和国日本国特命全権大使・宮本アジア研究所代表

2021年03月17日
  

「米中激突をどう読み、どう生き抜くか」

 中国共産党の統治の正当性を補強するために鄧小平が主張したのが改革開放政策による経済発展であり、江沢民は経済発展に加えて愛国教育を推し進めた。この間、中国は経済のグローバル化を最大限に利用して経済成長し、いまでは大多数の国にとって重要な貿易相手国となっている。反面、リーマンショック以降、中国では大国意識、中華民族思想が芽生え、対外強硬姿勢に転じた。習近平となって経済発展と歴史だけでは統治の正当性を担保できなくなり、イデオロギーと世界大国を目指す「中国の夢」を強調するようになった。

 経済のグローバル化は平和な環境で自由にモノが往来することが前提だが、イデオロギー、ナショナリズムを重視しながら経済成長を推し進めれば他国との対立や衝突は免れない。自国の経済力を過信する中国は、いまや国際社会から切り離されるかどうかの瀬戸際にある。

 近年は人件費が高騰し、高齢化社会に入りつつあり、将来的に経済失速が避けられない現状で、中国が米国に肉薄できる期間は限られている。最近では中国内でも持続的経済発展を実現するためにフェアで自由な競争を通じる経済の効率化を求める声が高まっており、国民の支持を得るため、習近平はいずれ安全保障、社会政策など多方面で見直しを迫られることになるだろう。

 米国は軍事安全保障面で中国に対抗する決意を行動で示せるか、米国自体の経済の再生に成功できるかが問われる。しかし、今後10年は中国が軍拡の手を緩めることはなく、米中対立の長期化は必至。中国経済が失速した後、初めて米中の世界平和に向けた本格的な協議が行われるのではないか。わが国は、世界、とくに東アジアにおいて中国との協力関係は極めて重要であり、軍事安全保障の対応はしっかり行いつつ、必要な協力関係は推進すべきだ。

 宮本氏はこのほか、米国と対立しているなかでインドとも衝突を起こしている中国の現状に触れ、「中国には外交戦略がない。習近平指導部の主権護持の強い姿勢を前に、官僚機構が指導部の意思を忖度しているためではないか。指導部の明確な方針変更がない限り、強硬的な外交姿勢は今後も変わることはないだろう」との見方を示した。このほか、バイデン政権下での米中関係の見通しについても述べた。その後の質疑応答ではミャンマークーデター、習近平の公安掌握などについて質問が及び、活発なやり取りが行われた。